さよならを教えてのとなえ先生

大昔にプレイした「さよならを教えて」で、一番惹かれたのは大森となえ先生だった。

(以下ネタバレあり)

 

前提知識として、このゲームの主人公は統合失調症で病院に入院していて、となえ先生は彼の主治医。

しかし主人公の妄想世界の中では、自分は教育実習生ということになっており、となえは実習で配属された高校の保険医ということになっている。

となえはそれを知っていて、治療のための問診の合間、彼の妄想に合わせて会話をしてくれている。

 

となえに関するシーンで好きなのが、いつものように主人公が保健室を訪れた際、普段と違って瀬美奈(主人公の姉)がその場に同席していたシーン。

予想外のことにうろたえる主人公の目の前で、となえと瀬美奈がこそこそ話(なぜ問診時間でないのに主人公が来ているのか、彼の妄想の辻褄合わせについてなど)を始める。

ここで主人公は二人に対する不信感がMAXになる。

なんで?と思うかもしれないけど、主人公は自分に当たりの強い瀬美奈に対して元々苦手意識を持っていて、反面となえに対しては、毎日雑談をして見返りなしにこちらを気遣うような発言もしてくれているので、友情めいたものを感じていたし内情を打ち明けられるくらい信頼していた。

でも、その当たりの強い女(瀬美奈)ととなえが自分の知らないところでかかわりを持ってこそこそ話をしていたことで「教育実習中に見せてしまった自分の失態を、瀬美奈がとなえに話しているのではないか?」「陰でこの二人が結託して隠し事でもしていたのではないか?」「となえの今までの態度は本当に本心なのか?」みたいな疑惑がバーーッ!と一気に湧き上がってるところなんですよ。

ここそういうケのある人じゃないとあまり理解できない思考回路かもしれない。

私も被害者意識強かった高校時代(道ですれ違っただけの他人が自分を馬鹿にしてたり舌打ちしてるような気がしていた)、目の前でクラスメイトがひそひそ話をしてるだけでこっちを笑いものにしてるんだ!とパニックになったりしてたし。

内緒話をしながらこっちをチラチラ見られた時にはもう疑惑が確信に変わりますよ(その子たち的には周りの人に話を聞かれてないか確認してるだけのことだって今なら分かる)

 

前置きが長くなったんですけど、自分が好きなのがこの直後のシーンで、

そんな自身の思い込みのせいで、主人公がBAD入ってパニック(錯乱)状態になりかけた際にとなえが言った

いいから!大丈夫、気にしない、なにもなかった。なにも問題はない。座りなさい!

って台詞が好きなんですよ。

今までのとなえの口調から一変して、怒鳴りつけるような命令口調で言いつけるんです。

それまでどちらかというとおちゃらけてて、ダウナーながらも主人公をからかってくる調子のいいお姉さんって感じだったのに。

主人公は反射的にこれに従って大人しく着席→放心状態になってるのを「ん、いい子だ」ととなえが言う。

そこから「ま~た瀬美奈に絞られちゃったよ」「あンたも毎日あんなのに付き合ってて大変だろう?」「禁煙しろってうるさくてさあ」と雑談に持っていく流れがうまい。

自分と主人公の共通の話題(喫煙)と、悪い言い方をすれば瀬美奈を共通の敵っぽく愚痴ることで身内意識を植え付けようとしているようにも見える。

まあそんな努力もむなしく、主人公→となえの不信感は拭えなくなっちゃったんだが……。

 

割と主人公の認知は歪んでて、特に人間関係に対しては白か黒か(味方か敵か)の両極端な見方しかできてないんですよね(そうなった理由は納得できる生い立ちなんだけど……)

ここまでの瀬美奈&となえに対する主人公の認識は

瀬美奈と自分→教育実習の担当教員と実習生→好き嫌い関係なく、職務上どうしても関わらなければならない相手→なので瀬美奈側からの歩み寄りがわずかにあっても「それは担当教員として必要な行為だったから」と主人公の中で流されてしまう。

となえと自分→教育実習先の保険医と実習生→本来なら関わる必要が無い。なのに保健室に毎日通っては喫煙することを許してくれてるし、雑談もして、悩みを聞いてくれたりもする。

だから主人公にとって瀬美奈は「必要だから関わらなければならない存在」でとなえが「見返りなしにこちらを気にかけてくれる存在」になってる。

実際のところ、それは主人公の妄想世界の話で、現実では瀬美奈は「頻繁にお見舞いに来てくれる姉」でとなえは「担当医」なので、見返りなしに関わってくれてるのはむしろ瀬美奈の方っていうのが悲しい。

 

普段穏やかな口調で話してくれてる人が、突然声を荒げたり激昂したりする瞬間が自分は好きなんですけど、となえ先生はその中でも「怒りによってではなく、患者をコントロールするためという必要な判断によって声を荒げた」ところが本当に好きです。

プレイヤー目線でもとなえは親身に話を聞いてくれてたし、こりゃオタク人気も高いだろうなwみたいな気持ちでいたらどうもそうでもないらしいのを知ってなんでェ!?ってなった(ちいかわ)

でも本来はキャラのほとんどが主人公の妄想から創り出された存在なわけで、そう思うと彼女ら(妄想世界の子たち)は裏表がなくて主人公の秘密裏に何かをしたりはしてないので、そういった意味での純真さ、清潔さに現実世界のキャラは勝てないよなという気もちにもなる。

まあキャラ萌えで見るゲームじゃないよと言われればそれはそう……(冷静)なんだ。

あととなえ先生以外だとこよりちゃんが好きです。

こういう男性向けゲームであそこまで確信を突いて非難してくれる子ってそうそう居なくないですか?

「そのヒクツさはぁ、既に傲慢ですよお」は後世に語り継ぎたい名言だと思ってる。

 

おわり